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世界各地で実用化されてるフリーゲージトレインがなぜ日本では開発失敗したのか調べた

鉄道のレールとレールの間隔のことを軌間(ゲージ gauge)と呼ぶ。この幅は固定されており、軌間の違う線路同士は互いに乗り入れできない。

しかし列車側に軌間可変機構を組み込み、軌間の違いを跨いで(ある種強引に)直通運転をやってしまえという考えがある。このための専用の列車はフリーゲージトレインと呼ばれる。


西九州新幹線はフリーゲージトレインの開発ありきで計画されている路線であった。しかし軌間可変機構を備えた電車がいつまで経っても実用化できないため、西九州新幹線の開通も中途半端なままとなっている。

このあたりの経緯については適当に解説を探せば大量に出てくる。たとえば 【かわいそうな佐賀】西九州新幹線はなぜ完成しないのか?

個人的には、JRが折れて佐賀県内は並行在来線も残すとかして全線フル企画新幹線を通すのが現実的では? と考えている。


政治的な問題はさておき、気になるのはフリーゲージトレインを取り巻く技術的難度についてである。これについてあまりまとまった解説が見つからなかったので調べてみた。


フリーゲージトレインはすでに実用化されている

世界的にはフリーゲージトレインはそこまで珍しいものではない。スペインのタルゴ台車なんかが有名で、とっくに実用化されて商用運転もやっている。

東欧では旧ソ連衛星国等との連絡に軌間可変が必要で、これも商用運転している車両がちゃんとある。

ちなみにフリーゲージトレインは和製英語で、variable gauge system, gauge change train 等の名前で呼ぶ方が本式らしい。


さて、日本のフリーゲージトレインもタルゴをベースに開発開始した。つまり軌間可変機構そのものは日本に来た時点ですでに完成していたことになる。

にも関わらずフリーゲージトレインの開発は技術的問題が解決できずに頓挫した。これはどういうわけだろう?


機関車は軌間可変しない

日本の鉄道はほぼすべてが動力分散方式(電車方式)だが、海外の多くの鉄道は動力集中方式をとっている。動力集中方式とはつまり「機関車1台 + 客車多数」の形だ。現在実用化されている軌間可変システムはすべてこの動力集中方式を使っている。

動力集中方式において、機関車には軌間可変機構が不要である。機関車に軌間可変機構を入れることは難しいので、これだけで技術的難度を大きく下げることができる。

なぜ機関車に可変機構が難しいのかというと、シンプルに搭載スペースと重量の問題である。軌間可変機構はそれ自体複雑で重くかさばり、モーター等の走行機器をたくさん持つ機関車の床下に搭載するには制約が大きいようだ。

一方走行機器を持たないただの客車であればスペース・重量ともに余裕があるので、比較的用意に可変機構を持たせることができる。


動力集中方式ではどのように軌間可変を実現するのか

機関車列車の場合、以下のような手順で軌間変更をするらしい。

  • それぞれの軌間に対応する2台の機関車A・Bを、あらかじめ用意しておく
  • 客車には軌間可変機構を備えておく
  • 機関車Aの推進運転により、客車を軌間変更区間に向かって押してゆく
  • 客車の半分が軌間変更区間を過ぎたら一旦停止
  • 軌間変更区間を通り抜けて出てきた先頭客車に機関車Bを連結し、逆に機関車Aとの連結は開放する
  • 機関車Bで客車を引っ張り、そのまま軌間変更を終えて出発する

日本の新幹線は動力分散方式であったことから、このような手法を取れなかったことが仇となった。


日本の鉄道は狭く、カーブが多い

世界の軌間可変システムはその多くが標準軌⇔広軌の可変である。対して日本の場合は標準軌⇔狭軌の可変が必要で、しかも軌間変更量も大きい。

たとえばスペインのタルゴは1435mm⇔1668mmの可変、東欧のシステムは1435mm⇔1520mmの可変。対して日本は1435mm⇔1067mmで、狭さも変更幅の大きさもかなりのものだ。これらが床下の搭載スペースの余裕のなさに直結する。

ただし狭軌での軌間可変自体には実用化例があり、スイスのMOBなどは1435mm⇔1000mmの列車を走らせている。やはりいちばんのネックは動力分散方式であるという点なのだろう。


また日本の鉄道はカーブが多く、狭軌とあわせて乗り心地の向上に苦労してきている。開発中止になったフリーゲージトレインも、軌間可変自体は実現できたが、走行時の振動など乗り心地に関する問題が解決できなかった。

さらに新幹線に要求される高速性能も併せ持つ必要があり、手を付けてみたら想定以上に技術的難度が高かったということだろう。


日本に最初に鉄道を売り込んできたイギリスが狭軌を薦めなければ、今頃色々なことがスムーズだったのになあと思わずにはいられない。

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