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俵万智『プーさんの鼻』は育児あるあるを素敵に切り取っていた

端的にとても良かった。 いくつか好きな歌を抜粋する。 読みやすく覚えやすくて感じよく平凡すぎず非凡すぎぬ名 名付けの葛藤あるあるすぎて何も付け加えることがないやつ。 海底を走る列車の音がする深夜おまえの心音を聞く LDRで聴く胎児心音のくぐもったリズムからはたしかに異界の音がした。出産の瞬間から肺呼吸に切り替わる胎児にとって羊水は原始の海だよねえ。最後の上陸に向けてどんどんテンポが早くなるんだよなあ。 おさなごの指を押さえてこの淡き小さき世界のふち切り落とす 新生児の指先はそこから聖域が始まる感じがする。白くて心なしか半透明で、周囲の雑多な俗っぽさに一切染まっていない世界というかんじ。爪を切るだけなのにいつもと違った感覚がして新鮮。 年末の銀座を行けばもとはみな赤ちゃんだった人たちの群れ 新生児と自宅で1週間缶詰生活! からのちょっと買い物に外出すると、自分で立って歩いて会話してトイレもできる人間がこんなにたくさんいることに驚愕する。家にいるあいつがこうなるのか……!? ふるえつつ天抱くしぐさ育児書はモロー反射と簡単に呼ぶ 知識があっても実際に見ると神秘ーってなる原始反射。毎日のしぐさ一つ一つに神が宿る感じある。 生きるとは手をのばすこと幼子の指がプーさんの鼻をつかめり うちの赤子も隣で読んでるこの本を掴んできたのでタイミングばっちり。 あーじゃあじゃ、うんまばっぽー、この声がいつか言葉になってゆくのか 上の子ですでに体験済みのはずなのに、未だに赤子から幼児へのステップがどんなふうなのか実感を持てない。人間らしき存在が毎週毎日もっともっと人間になってゆく、その積み重ねがこのミッシングリンクになるのかあ。 右腕のつけ根あたりに子の頭のせるにちょうどよきくぼみあり あるね。 靴を履く日など来るかと思いいしに今日卒業すファーストシューズ 半年で買い替えてゆく子の靴に我が感慨も薄れてゆかん 靴はなんの記念日にもならなくなっていくんだよな。これは本当にそう。一瞬で脱ぎ去る。 着ぶくれて石拾う子よ人類は月まで行って拾ってきたよ 一緒になって石拾いどんぐり拾いやってると大人のほうが夢中になってたりするやつ。狩猟採集生活の名残かもしれない。本能。 その他、別の歌集から持ってきた不妊治療の歌なんかも結構えぐる感じがあったりした。人間もとはみんな赤ちゃんだしいつでも皆がんばっているよな...

おすすめ本の紹介『われらはレギオン』

要約 https://www.amazon.co.jp/dp/B07CLSYLNF おもしろいから読め。 本文 『われらはレギオン』という小説シリーズがある。これがハチャメチャに面白いのでおすすめしたい。 『われらはレギオン』とは何であるか。それはSF小説である。 面白さの方向性でいうと『三体』三部作のような緊迫感と映像的スケールで殴るタイプではなく、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のお気楽オタク主人公奮闘小説に近い。 あらすじはこうだ。 主人公であるボブは不慮の事故で命を落とす。しかして目覚めた彼は自分がコンピューター上のAI人格になっていることを発見する。だが何のために? 恒星間飛行する探査機のAIユニットとなって、人類の新天地を探す遠大な旅をするためだ――! ほどなくして、AIを快く思わない陣営による妨害工作や、他国のAI探査機による直接的な攻撃など、困難が次々に降りかかる。 生前の技術知識と持ち前の楽天的な性格を駆使してそれらをかいくぐり、自分自身のコピーを増殖させながら、ボブはやがて遥か遠くの星系にまでたどりつく。果たして人類の新天地となる惑星は見つかるのか……!?  ----- この本はSFだが、それ以上にエンタメとしての完成度が高いので、ジャンルに馴染みが薄い人でもすぐ楽しめるだろう。 冒頭主人公が死んで復活し状況を把握して周囲も巻き込みつつあれよあれよで出発…… の一連の流れはびっくりする展開の速さだ。 ちょくちょく挟まれるサブカルネタもあいまって、非常にサクサク読めるエンタメSF、これが第一印象だった。 その上で科学考証はしっかりしており、作者の知識不足や科学的誤りにイライラさせられることもない。ウンチクを語りすぎるでもなく、技術的飛躍もちょうどよい塩梅で、バランスよく練られている。 https://www.amazon.co.jp/dp/B07FB8WHWB 『われらはレギオン』はシリーズものである。 ボブは自身の複製を次々作り、複製された彼らもまた別の星に向けて出発していく。やがて銀河系の片隅には直径数十光年のボブ勢力圏ができる。 ある勢力が拡大する速度は何に制約されるか。ひとつには光速である。 何年も前に起きた決定的な出来事の情報が、10光年先にいる他のボブ達には未だに伝わっていない。読者だけが神の視点ですべての出来事を把握している...