たとえば買い物に行くとき、当然(〝人によって感覚が異なるだろうが、自分としては当然の行動として〟の意味)店ではマスクをつける。
だが移動中はマスクは不要であるから、適当にカバンにつっこむか顎マスクで済ませる形になる。
自転車では顎マスクが標準。でも車は?
自転車でどこか行くとき、漕いでいる最中はたいてい顎マスク状態である(花粉症の季節を除く)。
運動中はできるだけ呼吸が楽な方がよいし、屋外であれば感染リスクを気にする必要はないと考えられるからだ。
普段は毎日顎マスクで自転車に乗っている。そして十分なサンプル数のもと、移動中に顎マスクでいることは季節や天候にかかわらず不快ではないことを実感している。
一方で、同じ移動中でも車の運転となると話が変わってくる。どういうわけか、運転中は顎マスクの不快感が大変強く、耐えきれず数分で外してしまう。
これも一度や二度のことではない。ちなみにエアコンをつけても止めても同じである。
最初、車という閉鎖空間でマスクをつけること自体が問題なのかとも考えた。しかし観察してみるとそうでもない。
つまり、運転中は顎マスクでいるより、鼻~口~顎を覆うよう普通にマスクをつけるほうが遥かに楽なのだ。これは率直に面白いと感じた。自転車では印象が逆だからである。
これらの違いはどこから生まれるのか?
姿勢の違い
顎マスクで自転車を漕いでいるとき、ふと「自転車とはかなりの前傾姿勢で漕ぐ乗り物だな」と気づいた。スポーツサイクルもママチャリも同じで、体重をかけて踏み込む乗り物であるから自然とそうなる。
これと比較すると、車の運転中は(頚椎保護を考えても)ヘッドレストに後頭部をつけるのが自然なので、基本的にはずっと後傾姿勢でいることになる。
そこで試しに、自転車を漕ぎながら車の運転席をイメージして後傾姿勢を取ってみた。サドルにまっすぐ座り、ハンドルを正面で安定させ、背筋を正し、仮想のヘッドレストに後頭部をつける。
すると不思議なことに、さっきまで気にならなかった顎マスクが俄然不快に感じられてきた。姿勢がマスクの感じ方に及ぼす影響は想像以上であった。
なぜ運転中は顎マスクの不快感が強いのか、に対する個人的な答え
自転車に乗りながらも部分的に車を再現する、もしくは運転中の気持ちを思い出してみるというアプローチはとても有効であった。
色々試してみて得た答えが以下である。
運転姿勢の違い
- 車は椅子に座るので後傾姿勢である
- 自転車は常時ペダルに体重をかけるし、特に坂道などではハンドルまでも力で押さえつけるように乗る。リカンベントでもない限りは前傾姿勢である。
- 顎マスクは耳と顎を結ぶので、後傾姿勢つまりのけぞる形になると、マスクの紐が伸びて圧迫が強まり、異物感が強くなる。
- 後傾してのけぞると、喉部分を覆っている首の皮膚が薄く引き伸ばされ、マスクがよりダイレクトに喉仏を押さえつけるようになり、呼吸が苦しくなる。
動きの少なさ
- 自転車を漕いでいる自分を観察すると、足だけでなく、わりと全身の筋肉が同時に動いている。
- 顎や首周辺の筋肉も自転車を漕ぐ間しじゅうグリグリと何らかの運動をしている。このとき筋肉の動きに引っ張られて顎マスクの位置も細かくズレ続けている。
- これが、マスクの圧迫が一点に集中しない、加えて筋肉が固く緊張しているため喉の手前で圧迫感が弱まる、といった効果をもたらす。
- 車では、狭い路地で左右の安全確認を繰り返しながら進む間は大丈夫だが、大きな道に出て信号で長時間停車すると顎マスクの圧迫感が強まってくる。
- 停車すなわち首周辺の運動が止まることで、マスクによる圧迫箇所が固定化され、一気に不快感を意識させられるのであろう。
- 自転車に乗りながら「できるだけ足以外の筋肉を動かさないよう」上半身を固定して漕ぐようにすると、たしかに顎マスクの不快感は増大した。
顎マスクによるメリットの減少
- 自転車は身体を使った運動なので、少しでもスムーズな呼吸が重要である。多少喉に不快感を与えても口元にマスクがない方が、総合的にはメリットを享受できる。
- 反面、車で運転中に呼吸が乱れるような運動をするケースは通常ない(※)ので、口がマスクで覆われていても呼吸の点では特に気にならないと考えられる。
- 言い換えれば、車ではマスクをずらしてスムーズな呼吸を確保することのメリットが、相対的に小さい。
※レーシングカーで呼吸を止めながら強いGをかけてコーナリングするといったケースはこれの例外である
風の有無
- 自転車は人体が外に露出しているので、走行中は常に風を顔に受ける。マスクをずらすことで風を直接受けられるので、より清涼感が増す。
- 車では通常走行風を直接顔に受けることはない。私はオープンカーに乗っている人間ではないので。
- すると車ではマスクをずらしても清涼感はそれほど得られず、不快感のほうが目立つ結果となる。
染み付いた意識の違い
※この項は実験的事実に基づかない憶測・仮説である- 車は「狭い室内」である。このような空間ではマスクをつけているのが普通、あるいは少なくとも不自然でないとする、なかば刷り込みのような意識がある。
- 「狭い室内」において顎マスクでいることには社会的なタブーがまだ残っており、それが言いしれぬ居心地の悪さをもたらす。
実際にはこれらの要素が複合的に作用していると考えられる。
結論としては、たまに自分の感覚を言語化・分析してみると知らない発見があるなあという当たり前の話であった。
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