RealforceにはHiProというシリーズが存在する。
現在は生産終了しているが、レトロなタイプライター風のデザインで一世を風靡した(自分調べ、n=1)ものだ。
REALFORCE 108UG-HiPro というモデルを所有して10年になる。
キートップを外して掃除した程度では取れない汚れが蓄積して久しい。
このほど完全分解清掃することとした。
完全分解清掃
完全分解とは、マジで完全に分解するという意味である。
キーキャップだけ取り外して洗うみたいなことではない。
基盤とかスタビライザーとか全部外す感じだ。
今回はとりあえず(基板上実装以外の)すべての部品を外し
全バラ・洗浄することを目標としたい。
というのも、掃除したいポイントはキーボードの奥底で、
キーの隙間から覗く内部の基板か何かの板が
白茶けて、粉を吹いて、腐食すらしているようで、とにかく汚いから。
予習として、以下のページの分解手順が大変参考になった。
というかほぼこれで全てだった。
とはいえ、HiPro独自仕様であったりして
上記に書かれている点と異なる部分も多少はあるので、
本記事はそのあたりについて書くことにする。
分解前の準備
最初にUSBケーブルを抜く。
そして、何はともあれスタートの状態を写真に撮っておく。
重要なことだが、この先も1ステップ進むたびに必ず写真を撮るようにする。
入り組んだ細部の固定方法や、ケーブルの這わせ方や、
真横や斜めからの視点、よくわからなければとりあえず全体が写るようになど、
とにかく写真を撮りまくる。
持ち物チェック
必要なものが揃うまでは作業を開始しないのが大事である。
勇んで分解したものの装備不足から途中でスタック! とかになると
分解も組み立てもままならない脆弱な部品たちがずっと場所を取ることになる。
必要なもの一覧:
- 連続した作業時間、4時間~
- キートップ引き抜き工具
- スマホとか用のプラ製分解工具
- +2ドライバー
- +1ドライバー(電動を強く推奨。とにかく本数が多い)
- マイナスの精密ドライバー
- 外したネジを入れておく皿・ケース ×3
- レジ袋10枚くらい(部品を種類ごとに分けて保管するので)
- 滑り悪いプラ部品に吹くシリコンスプレー
- 外した部品を入れておく箱(最低限でキーボード本体が入るサイズ)
- 広めの作業スペース
- 外した基板を長時間安全に置いておける水平スペース
- 部品乾燥用の広いスペース(目安ダイニングテーブルぐらいの大きさ)
掃除用具。ここは汚れ具合によって必要なものが異なる。
- 掃除機
- ウェットティッシュ
- 細めのマイナスドライバー(ウェットティッシュ巻き付けて細部を拭く)
- 洗濯用洗剤
- 部品を洗う用の洗面器(複数あるとよい)
- 無水エタノールと綿棒
- キッチンペーパーたくさん
- バットをいくつか
- サーキュレーター(高速で風乾させたい場合)
自分の場合は汚れがひどかったので追加で以下を利用した。
- サンポール
- パーツクリーナー
- 六角軸の真鍮ワイヤーブラシ
- 鉄部用錆止め塗装スプレー
- 45Lゴミ袋
- ニトリル手袋
分解開始:カバーを開ける
細かい手順については先の参考記事を参照されたい。
まず、キートップをすべて外す。
- アルファベット類
- 数字&ファンクションキー
- 修飾キー
- テンキーを含むEnterより右側のキー
これをやっておくと装着時の作業効率が大幅に向上する。
次に裏返して、下側の4箇所のツメをスマホ分解工具で外す。
(なければマイナスドライバーでもいいけど、傷は付く)
開けると大抵大量のホコリや髪の毛が顔を出すので掃除機で吸う。
ケーブルを外す
基板左上にUSBケーブルが見える。断線させると死なので真っ先に外す。
ひっくり返して表側が見えるようにする。
右上にケーブルのコネクタがある。
ネジ止めされているアース線を外す。
次にUSBケーブルを慎重に外す。
このときリード線を引っ張って抜こうとしてはいけない。
コネクタの隙間に精密マイナスドライバーを差して、
斜めにならないよう左右を均等に少しずつ外す。
本体ユニットを分離
ここまでやると、基板を含む本体ユニットがケースからフリーになるので、
掃除機でホコリを吸いつつ分離させる。
外したケースは最後の組み立てまでは一切使わないので
用意しておいたでかい箱に入れておく。
キートップを詰めたレジ袋も同じく最後まで使わない。
さて、おそらく外した本体ユニット板が大変汚い。
この先の作業に支障が出ないよう、ざっくり汚れを拭いておくとよい。
(ちゃんとした掃除は全バラ後に控えている。今は10秒拭くくらいで平気)
基板裏面のネジを全て外す
基板を裏返して写真を撮る。
電動ドライバーに+1ビットを取り付けて、クラッチを最弱に設定。
基板裏面にある大量のネジを1つずつ外していく。
外したネジは種類別に皿に入れる。
手動ドライバーでもやれなくはないが、手戻りもあり得るので覚悟が必要。
基板とキートップ板を分離
ネジを全て外した(と思った)ら、
懐中電灯で基板の真横から照らして、まだ残っているネジの影を探す。
残存ネジが見つからなければ、今やついに基板はフリーである。
ここからはミスるとダメージが大きいので慎重に。
まず掃除機は仕舞うこと。ドライバーも仕舞う。作業スペースを広く取る。
※キーボードは基板とそれ以外に分離した瞬間、いきなり専有面積が倍になる
外したネジも、この段階でケースに入れ安全な場所に片付ける。
ネジにはこのあと数時間は用がない。
間違って手が当たると全部ひっくり返るような場所には置かないようにする。
----
準備ができたら、本体ユニットを表側が上になるようにひっくり返す。
このとき基板だけ持ち上げるとバラバラになるので、
サンドイッチ構造全体を上下から挟むようにして持ち上げる。
表向きになったらキートップ鉄板を基板から分離する。
中のラバードーム108個とスプリング108個が飛び散らないよう、丁寧に外す。
このように分離できる(忘れずに写真を撮る)。
分離できなければどこかにネジの外し忘れがある。
基板を安置
上の写真のようにラバードームはゴミだらけなので、ウェットティッシュで拭く。
このとき、ラバードームを基板上の位置からなるべくずらさないようにする。
というのは、ラバードームの位置が数ミリずれると
もうそれだけで押したときキーを認識しなくなってしまうため。
組立時の位置合わせが面倒なので、なるべくなら最初からズラさないようにしたい。
拭き終わったら、しばらく基板は不要。
最初に用意しておいた水平スペースに安置しておく。
鉄板側を分解
自分の場合、一番汚いのがこの鉄板だった。
かなり強く拭いた後ですら以下のような状態。
完全に分離してから洗浄したいので、さらに分解を続ける。
さて各キーの作りは
ここまでの工程で
- (1層目)キートップ
- (4層目)ラバードーム
- (5層目)スプリングと基板
がすでに外されている。後は
- (2層目)キー軸
- (3層目)キー枠
ちなみに鉄板はキー枠と同じ層にある。
キー軸の外し方
キー軸は上側から押し込むだけで外れる。簡単。
変にツメを折らないよう力加減だけする。
なお、メインキー側の最下段のキー軸は形が微妙に違うので
袋を別で分けておくとよい。
※鉄板の掃除だけが目的ならキー枠とキー軸を分離する必要はないので、この工程はスキップして次に進む
鉄板にキー枠だけが残っている状態まで持って来れた。
キー枠の外し方
キー枠は鉄板の穴にはめ込まれている。
爪を起こして上から押し出すとか、裏側からマイナスドライバー使って
持ち上げるとかで全て取り外すことができる。
注意点として、キー枠には何種類か形があるので、混ざらないように分けたい。
- 普通のやつ
- 大型で、なんか長方形のやつ
- 普通のに似ているが よく見ると違う形のやつ(メインの最下段にあるやつ)
それぞれ別のレジ袋に入れておくこと。
すべて外すとこのようになる。
ようやく鉄板を単体にできた。
鉄板の洗浄
鉄板はだいぶ錆びている。これには頭を抱えた。
正直、キッチンみたいに表面へゴミが固着して取れない程度と予想し
洗濯洗剤か食器洗剤で対処できると考えていたためだ。
高級機種なのに、なぜステンレスにしてくれなかったのか……
さて、表面をウェットティッシュで拭いても錆は落とせない。
よって対処としては削るか溶かすかになる。
今回はサンポール50%液を適当に作って漬け置きした。
鉄板がすっぽり入るほどのバットは持っていないので、
二重にした45Lゴミ袋で代用。
ちなみに作業後に見たら内袋は破れていた。危ない。
50%と言ったが濃度は特に測ってはいない。
目分量で原液ぶっかけて、目分量で水をぶっかけて、適当に混ぜた。
このまま1時間ほど放置。その間に他の部品を掃除する。
プラ部品の洗浄
手元には分別プラ部品レジ袋がたくさんあるはず。
10年間使ってきても ここまで分解したのは初めてなので、まあ仕方ないが。
さて、プラ部品の掃除手順は種類によらずぜんぶ一緒だ。
- 洗面器に部品を入れて、ぬるま湯を入れて、手でガシャガシャと(とはいえ、マイルドに)洗う
- 汚れた水を捨てて、ぬるま湯を入れて、洗濯洗剤を入れて、手でガシャガシャと洗う
- 汚れた水を捨てて、ぬるま湯を入れて、洗濯洗剤を入れて、5分くらい漬け置きする
- 手でガシャガシャと洗い、汚れた水を捨てる
- ぬるま湯を入れてガシャガシャすすぎ、汚れた水を捨てる
- 再度ぬるま湯を入れてガシャガシャすすぎ、汚れた水を捨てる
- 洗剤や汚れのヌメリが取れたら乾燥工程に
これを部品の種類数分だけ繰り返す。
洗うたび茶色い水がどんどん出るので楽しい。
----
余談になるが、水に漬けない清掃方法もあると言えばある。
たとえば1つ1つウェットティッシュで拭くとか。
ただこれ、実際に試すとわかるのだが
乾燥時間を考慮に入れても水に漬けるほうがずっと早く終わる。
(なにせ、108個の部品が×3セットとかで存在するので……)
そのうえ水を使うほうがずっと綺麗に仕上がる。
アタックゼロの洗浄力は本当にすごい。
なので水を使う清掃方法がおすすめ。
プラ部品の乾燥
このようにする。
- キッチンペーパーに種類別に乗せる
- そのままでは凹み内部の水が排出されないので、手で持って遠心力で水を飛ばす
- キッチンペーパーの上に戻す
- そのまま乾くのを待つ
高速で風乾させたい場合はサーキュレーターの風を遠距離から当てるとよい。
風を使う目的は高湿度の空気を速やかに排除することなので弱風でよい。
変に強風だと部品が飛んで行方不明になる。
乾いたらキー軸だけレジ袋に戻し
袋内でシリコンスプレーみたいなプラOKな潤滑剤をぶっかけておく。
自分の場合はドライファストルブを使った。
当然ながら5-56は絶対ダメ。
キーボード本体の外装ケース掃除
これは形がシンプルなので苦戦しない。
ウェットティッシュで拭くだけで十分綺麗になった。
上下のケースが嵌まる溝には汚れが固まっているので、
ウェットティッシュをマイナスドライバーに巻きつけて奥に届かせる。
プラ相手なので無水エタノールは使わないこと。白化するかも。
あとケーブルとか、裏のゴム足とかも拭き上げておく。
サンポールから鉄板の引き上げ
1時間放置した鉄板だが、このようになった。
正直「やっちまった……」と思った。塗装が全部剥げている。
サンポールとは要は塩酸なので、まあそれなりに強い。
それでもサビ防止を企図していると思われるコーティングが
ここまで薬品に弱いとは想定外だった。実はサビ防止効果皆無だったのかも?
(あと、引き上げてすぐアルカリ電解水とか重曹とかで中和するべきだった
のだがそんなことを思いつく余裕はこの時にはなかった。
酸に浸したあと中和せず放置したら1日で全体が恐ろしく錆びそうだ)
電動ドライバーにつけた真鍮ブラシで全体を削った。
ヘアライン加工したようなもので、見た目は映える感じに。
鉄板を再塗装
そのままだとまたすぐ錆びるので
錆止めを兼ねた塗装をしなければならない。
急いでいたのでモノを選ぶ余裕がなかったが、こういったものを買った。
「サビ落とし不要でいきなり塗れる」こちらの方が良かったかもしれない。
(既存の錆がこれ以上広がるのを防ぐ機能もあるという意味なので)
まあ、おそらく酸素と水を遮断する効果は同じなので、
どちらのスプレーでも同等の機能は得られるであろう。
注意したい点として、あまりに屋外用を全面に押し出した製品だと
塗膜の仕上がりが分厚くなり寸法が合わなくなる可能性がある。
同じ理由でスプレーを吹くときもあまり厚塗りにはしないこと。
明るいオレンジとかにしてキーの隙間から色が覗くようにしても可愛くなりそうだ。
自己流だが、塗装の手順も書いておく。
- 両手に手袋をして屋外で作業する
- パーツクリーナーを鉄板全体に吹いて脱脂
- パーツクリーナー液をキッチンペーパーで拭き取る
- 鉄板を45Lゴミ袋に入れて、ゴミ袋の中で塗装スプレーをふきかける(※)
- 塗装中は息を止め、ゴミ袋からの空気を吸わないようにする
- ひっくり返して鉄板裏面もまんべんなく塗装する
- ゴミ袋の外に出して5時間くらい乾かす;鉄板の移動経路でスプレーが液垂れしないよう対策して行うこと
※本当は家の外壁等を汚さないよう周辺を養生して外で作業するのだが、
使える資材がなかったのでゴミ袋内を簡易ドラフトチャンバーにした。
再組み立て・そして罠
鉄板を素手で触っても汚れがつかないようになったら
分解と逆の手順で組み立てを行う。
まずキー枠にキー軸をはめ込む。ここに罠がある。
まずキー枠には高いものと低いものがあって、
低い方(写真左下)はメインキー側の最下段のキーで使われる。
低いキー枠に組み合わさるのが、若干角張った方のキー軸(写真右下)である。
間違った組み合わせには、基本、嵌らない。
嵌らないのだが、力を入れて無理やりはめ込むことは可能で、
その場合キー軸の横に出ている突起を破損してしまう。
こうなるとキー軸がユルユルになり自然に外れて落ちてくるようになる。
自分の場合はエポキシで無理くり補修したが、耐久性は考えたくない。
※この罠はHiPro特有である。
HiProでない通常のRealforceには全て低いタイプのキー枠が使われているため。
キー枠(w/キー軸)を嵌め込む
キー軸とキー枠(大きなキーでは、これらに加えてパンタグラフ)
がひとつになったら、今度はそれを丸ごと鉄板にはめていく。
技術的には特に難しいことはない。
塗装の分少し穴が小さくなっているはずなので、
高さが揃うよう確実に奥まで嵌めるだけ。
小さなキーをすべて嵌めたあと、大きなキーに移る。
大きなキーの裏側には何か番号が書かれているので、
一応最初と同じ位置に同じ番号の枠が来るようにする。
- Enter: 1
- NumEnter: 2
- Num0: 2
- Num+: 3
- Space: 4
こんな感じだった(他にもあったはずだがメモが残ってなかった)。
はめ込む向きにも注意。大雑把に「D」の形をしているので形状から向きを合わせる。
基板の取り付け
鉄板側が完成したら、安置していた基板を取り出してくる。
ラバードームとスプリングも載っているので位置がズレないよう慎重に動かす。
ズレたラバードームは位置を合わせて
電動ドライバーでネジ止めを行う。
このとき、まだ全てのネジは止めないこと。
今回はネジも先端に錆びが付着していたので、サンドペーパーでできるだけ取り除いた。
動作チェック
固定に最低限必要と思われるだけのネジを止めたら
またひっくり返してUSBケーブルをつなぎ、動作チェックを行う。
アース線は取り付けなくてもとりあえず動くようだ。
(たぶん、長時間稼働時に静電容量が変化して信頼性が落ちるのを防ぐ目的で、
余計な電荷を逃がすための装備なんだと思う)
PCにケーブルを繋いで、LEDが光るかをチェックし
全キーの押下と認識チェックを行う。→ キーボードテスト を使った。
押した感じに違和感がないか、ちゃんと入力認識するか、
手を離したときすぐに入力が止まるか。
テストに失敗した場合、おそらくラバードームの位置がズレているので
ケーブルを外して裏返してビスを外して裏返して分離して、
ラバードームの位置調整をやり直す。
全キーのテストに成功したら、ケーブルを外して
仮止めしていたビスを全て締め、アース線とUSBケーブルを元通りに収める。
大詰め
ケース右上あたりのケーブルワークはちょっと窮屈だが、
気をつけて作業すれば絶対綺麗に収まるのでグチャッとさせないこと。
ケースのツメは上から押すだけで固定できる。
再度ケーブルを差して、断線等がないことを確認したら
キートップを元通りに戻す。
自分は最初「{」が上下逆さなのに気づかず数時間使っていた。
思い込みとは恐ろしい。
完成
お疲れ様でした。
コメント