うちの上の子はふつうの風邪やちょっとした体調不良でもすぐ嘔吐する。
「まあそういう胃腸が弱い的な体質なのかなー。子供って個性色々だしなー」程度になんとなく考えていたが、このほどケトーシスというドンピシャこれ答じゃんみたいな概念を教えてもらった。
教えてくれたのは子供の救急先で私の相手をしてくれた医者であり、その説明は大変にクリアーであった。これは記憶が新鮮なうちに書き出しておかねばと感じた次第なので備忘録を起こす。
※私自身は医療関係者ではなく専門知識も特にない。聞き間違いや思い込みを含む様々な理由により間違ったことを書いている可能性は十分にある。この記事を信じて何らかの行動を取ったとしてもその責任はすべて行動した本人にある。
〝子供は低血糖のとき嘔吐する〟まさか
なんじゃそりゃって感じだ。おかしいと思いませんか? ねえ、あなた? 私は思った。これ、胃腸炎の子供を家で診た親の感想とは真逆なので。
まず参考として、子供がノロやロタにかかると、細かい違いはあれど大体こうなる。
- 最初に吐く(ここで胃腸炎に気づく)
- 吐くので食事を摂れない → 低血糖
- 吐くので水分を摂れない → 脱水
- 低血糖と脱水症状のコンボでグッタリしてくる
- 回復のため少~しずつ水分を摂らせる
- 再度吐く → ループ
- 吐かない → 恐る恐る回復コースへ
つまり自然な思考として、吐くから低血糖になるのだと当たり前に思っている。
しかし医者の話を信じるならば、まず低血糖が先に来て、そのせいで嘔吐していた可能性があるということになる。
上で書いた順番どおりだったケースも当然あるだろうが、一方で完全に順番が逆だったケースもあろうということだ。
というか論理的には、胃腸炎でないただの風邪で嘔吐する場合は、まず先に低血糖が発生していたパターンの可能性が高そうだと考えられる。
そしてこの後者パターンの原因がケトーシスと呼ばれるものであるらしい。
なぜ低血糖こそが嘔吐の原因たりうる?
- 低血糖とは率直に言って生命の危機である。脳はブドウ糖でしか働かない。
- 人体には低血糖それを補償する仕組みが何重にも備わっていて、生命の危機を防ぐように働く。
- 身体は低血糖時、糖のかわりに脂肪酸をエネルギー源とするよう働く。しかし肝臓が脂肪酸を代謝するとき副産物としてケトン体が発生する。
- ケトン体には主に3種類(アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、アセトン)があるということだ。このうち前者の2つがエネルギー源として利用される。
- しかしケトン体の血中濃度が高まることそれ自体により直接嘔吐中枢が刺激される。これが嘔吐につながる。
- より高濃度のケトアシドーシスに進展した場合、これ以外の機序もあらわれてくるようだ。たとえば酸性血により胃腸の動きが悪くなるなど。
- 嘔吐のもたらす副次的影響がケトーシスをさらに悪化させる。
- 嘔吐することで食事が摂れなくなるため、低血糖状態が更に悪化する。
- 嘔吐が続けば脱水症状となり、血液の成分は相対的に濃縮されるので、ケトン体の血中濃度はより上昇する。
自家中毒症との関連について
小児のケトーシスを自家中毒症と呼ぶことがある。
ケトーシスによる嘔吐では食中毒等とは異なり、自己の体内物質のみの影響で中毒症状に至ることから「自家」と呼ばれるらしい。
ただし、風邪などの体調不良や絶食といったわかりやすい原因が特定されている場合、わざわざ自家中毒と呼ばう傾向はあまり見られない。
ニュアンスとしては、ストレス等を起因として(詳細機序不明ながら)糖代謝バランスが崩れることでケトーシスに陥った場合を、とくに自家中毒と呼ぶことが多いようだ。
精神的にナイーブな子供は緊張などストレスによって〝勝手に〟ケトーシスを発症して嘔吐することがある。外部視点だと明確な外因に思い当たらないため、「自家」と呼びたくなるのだろう。
子供のケトーシスについて調べると、普通の低血糖ではなくこの自家中毒の話が数多くヒットしてしまい、自分が調べたい症状の原因がよくわからなくなる(うちの子は神経質なタイプじゃないなぁ。じゃあ違うか…… みたいな)。本来は分けて考えるべき事象である。
なぜ子供の低血糖だけが嘔吐に直結する?
言い換えると、なぜ大人は多少絶食しても平気でいられるのか?
これにはいくつか理由があるらしい。
- 大人の身体は、低血糖時は脂肪酸より先にまずグリコーゲンを取り崩して血糖補給できる
- なので大人は1食くらい抜いても簡単には痩せない
- しかし子供は肝臓や筋肉へのグリコーゲンの蓄えが少ない(筋肉量自体もまだ少ない)
- なので痩せ型の子供ほどすぐに脂肪酸燃焼が始まってしまう
- 同じ体重あたりに均すと、子供は大人よりも多くの血糖を必要とする
- 大人と子供で体重は大きく違うが、脳の重さにはさほど違いがないため
- 「子供は頭が重いから転びやすい」とかよく言われるやつ
- そして脳はブドウ糖のみをエネルギー源とする、大量血糖消費器官である
- 身体の小さい子供は循環している血液量がそもそも少ない
- 同じ血糖値であっても、子供のほうが全身を回っている血糖総量が少ない
- 同じ理由で少量のケトン体でも濃度的には高くなりやすい
大人の場合はむしろ「多少ケトン濃度高いくらいが脂肪燃焼できてる証拠」とか言って喜んだりするので、人類のむずかしさを感じる。
ケトーシスの予防&対策
- 水分補給には水やお茶よりも、アクアライトやリンゴジュースなど糖分と電解質が補給できる甘い飲み物の方が安全である(柑橘系は胃腸への刺激負担が強いので避ける)。
- 水分補給とは別に糖類を摂らせるとよい。たとえば飴玉。組成はブドウ糖でなくともよい。つまりショ糖や果糖で問題ない。
- 一応、大きめのドラッグストアならばブドウ糖のタブレットが置いてあるし、そこらへんにあるラムネは90%がブドウ糖で作られている。
- エネルギー密度は固形物のほうが圧倒的に大きいので、胃腸炎でないただの風邪とわかっているならば回復食の段階を早めに進めるのも手。
- 痩せ型の子ほどグリコーゲンの蓄積が少なく脂肪燃焼モードに入りやすいので意識して糖補給させる。
どの育児書にも「胃腸炎、まず脱水症状に警戒!」「嘔吐の際は1にも2にも水分補給!」「とにかく少量ずつでも水分補給!」という感じで書いてある。
そこでつい忘れてしまうのだが、実際には水分だけ補給していると血糖の方で不足する可能性があると覚えておく必要がある。
まあ低血糖から嘔吐になれば結局脱水も併発するので、気をつけるべきという意味では同じだが……。
気をつけていてもケトーシスかつ脱水になったらどうする?
この場合「医者で点滴してもらう」という強力な解決方法がある。これをすると事態が一気に改善するのでびっくりする。うちの子供などうつらうつらしていた受け答えが目に見えて元気に、機嫌もよくなっていた。
ケトーシス対策の観点からみた点滴の効果は、
- まず水分補給
- ついで血糖の直接補給
- これらが脱水症状と低血糖をまとめて解決する
- さらに血漿成分が増えることで単純にケトン体の濃度が薄まる
という形で、わかりやすくいい事ずくめである。
実際にどんな点滴をされる?
うちの子供に打たれた輸液パックの記録写真:
時速220ml で設定されていた輸液ポンプ |
ヴィーンD、ブドウ糖加酢酸リンゲル液 |
ソルデム1輸液 |
ヴィーンDはリンゲルなので等張、ソルデムは低張らしい。両者の違いは、低張の方が細胞内液の補充に効果的にはたらく。ソルデムの方がグルコース濃度は低くカロリーも半分。
ただ、どちらもブドウ糖が特別に多い輸液剤というわけではない。ケトーシスには血糖補給が効果的とはいえ、実際のところはどちらの輸液も水分補給の側面が大きそうだ。
ちなみに、意識障害一歩手前みたいなマジの低血糖症状が出ているときは、20%やら50%といった高濃度のグルコース溶液数10mlを数分かけて静注するらしい。
一方で上の点滴は500mlを2時間以上かけて落としていたので、低血糖について危機的状況ではなかったことがわかる。
自分の子供でグルコース静注なんてイベントはさすがに起きてほしくないものだ。
(おわり)
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